合同ゼータ関数

数学において、q 個の元をもつ有限体 Fq 上で定義された非特異射影代数多様体 V合同ゼータ関数 (congruent zeta function) Z(V, s)(または局所ゼータ関数 (local zeta function))とは、NmFqm 次拡大体 Fqm 上の V の(有理)点の数(定義方程式の解の個数)としたとき、

Z ( V , s ) = exp ( m = 1 N m m ( q s ) m ) {\displaystyle Z(V,s)=\exp \left(\sum _{m=1}^{\infty }{\frac {N_{m}}{m}}(q^{-s})^{m}\right)}

で定義される。変数変換 u = q-1 を行うと、これは u形式的冪級数として

Z ( V , u ) = exp ( m = 1 N m u m m ) {\displaystyle {\mathit {Z}}(V,u)=\exp \left(\sum _{m=1}^{\infty }N_{m}{\frac {u^{m}}{m}}\right)}

で定義される。

あるいは同じことだが、

( 1 )     Z ( V , 0 ) = 1 {\displaystyle (1)\ \ {\mathit {Z}}(V,0)=1}
( 2 )     d d u log Z ( V , u ) = m = 1 N m u m 1 {\displaystyle (2)\ \ {\frac {d}{du}}\log {\mathit {Z}}(V,u)=\sum _{m=1}^{\infty }N_{m}u^{m-1}}

が定義に採用されることもある。 言い換えると、合同ゼータ関数 Z(V, u) とは、有限体 F 上で V を定義する方程式の Fk 次拡大体 Fk における解の数の生成母関数が、Z(V, u)対数微分となるような関数とも定義できる。

定式化

有限体 F = Fq が与えられたとき、自然数 k = 1, 2, ... に対し、拡大次数が [ Fk : F ] = k である体 Fk = Fqk同型を除き一意に存在する。F 上の多項式からなる方程式系、あるいは、代数多様体 V が与えられると、Fk における解の数 Nk を数えることができ、その生成母関数

G ( t ) = N 1 t + N 2 t 2 / 2 + N 3 t 3 / 3 + {\displaystyle G(t)=N_{1}t+N_{2}t^{2}/2+N_{3}t^{3}/3+\dotsb }

を作ることができる。

局所ゼータ関数 Z(t) の定義は、log ZG に等しくなるようにする。つまり、

Z ( t ) = exp ( G ( t ) ) {\displaystyle Z(t)=\exp(G(t))}

とする。

G(0) = 0 だから Z(0) = 1 である。また、Z(t) はア・プリオリに形式的冪級数である。

Z(t)対数微分

Z ( t ) / Z ( t ) {\displaystyle Z'(t)/Z(t)}

は、生成母関数 G(t) の微分

G ( t ) = N 1 + N 2 t 1 + N 3 t 2 + {\displaystyle G'(t)=N_{1}+N_{2}t^{1}+N_{3}t^{2}+\dotsb }

に等しい。

まず、一点からなる多様体を考え、多様体の定義方程式を X = 0 とする。この定義方程式は、拡大次数 k がどのような値であっても、方程式の解の数は、Nk = 1 となる。このことから全ての k に対し、形式的べき級数の各係数が 1 である場合と、V を一点からなる多様体として取ることとが対応する。従って、

G ( t ) = log ( 1 t ) {\displaystyle G(t)=-\log(1-t)}

は、|t | < 1 に対する対数の展開であり、

Z ( t ) = 1 ( 1 t ) {\displaystyle Z(t)={\frac {1}{(1-t)}}}

となる。

さらに興味深い例は、VF 上の射影直線(projective line)としたときである。Fq 個の元を持つとすると、この多様体は q + 1 個の点を持ち、この +1 個は無限遠点と考えるべきである。このことから、

N k = q k + 1 {\displaystyle N_{k}=q^{k}+1}

となり、|t | が充分小さいとき、

G ( t ) = log ( 1 t ) log ( 1 q t ) {\displaystyle G(t)=-\log(1-t)-\log(1-qt)}

となることが分かる。

この場合には、

Z ( t ) = 1 ( 1 t ) ( 1 q t ) {\displaystyle Z(t)={\frac {1}{(1-t)(1-qt)}}}

となる。

これらの関数を最初に研究したのは、1923年のエミール・アルティン(Emil Artin)であった。彼は、超楕円曲線の場合の結果を得て、さらに曲線一般への適用として、理論の主要な点を予想とした。この理論は、F. K. シュミット(F. K. Schmidt)とヘルムート・ハッセ(Helmut Hasse)により開発された。[1] 局所ゼータ関数の非自明で最初な例は、カール・フリードリヒ・ガウス(Carl Friedrich Gauss)のDisquisitiones Arithmeticaeの論文 358 により、暗に与えられていた。虚数乗法をもつ有限体上の楕円曲線の特別な例は、円分の方法(cyclotomy)により、それらの解の個数を数えることができる。[2]

定義やいくつかの例については、[3]も参照。

動機

GZ の定義の間の関係は、多くの方法で説明することができる(例えば、以下の Z の無限積の公式を参照)。実際は、(一般の代数多様体に対しても、)この方法は、V が有限体上の楕円曲線 V の場合のように、Zt有理関数となっている。

関数 Z は多重のとなっていて、大域的ゼータ関数(global zeta function)を得る。これらは、異なる有限体を意味していて、p が全ての素数を渡るときの体 Z/pZ の族の全体を意味している。これらの関係の中で、変数 tp-s が代入される。この sディリクレ級数に使われる伝統的な複素数変数である。詳細はハッセ・ヴェイユのゼータ関数を参照。

このように理解すると、例で使われた 2つの場合の Z の積は、 ζ ( s ) {\displaystyle \zeta (s)} ζ ( s ) ζ ( s 1 ) {\displaystyle \zeta (s)\zeta (s-1)} となる。

有限体上の曲線のリーマン予想

F 上の非特異な射影曲線 C に対し、g を曲線 C種数とし、P(t) を曲線を定義する次数 2g の多項式とすると、

Z ( t ) = P ( t ) ( 1 t ) ( 1 q t ) {\displaystyle Z(t)={\frac {P(t)}{(1-t)(1-qt)}}}

となる。

P ( t ) = i = 1 2 g ( 1 ω i u ) {\displaystyle P(t)=\prod _{i=1}^{2g}(1-\omega _{i}u)}

と書くと、有限体上の曲線のリーマン予想は、

| ω i | = q 1 / 2 {\displaystyle |\omega _{i}|=q^{1/2}}

となるということを言う。

例えば、楕円曲線の場合は、2つの根を持っていて、根の絶対値が q1/2 であることを容易にしめすことができる。楕円曲線のハッセの定理は、2つの根が同じ絶対値を持ち、このことは(楕円曲線の)点の数の直接的な結果であることを言っている。

アンドレ・ヴェイユ(André Weil)は1940年頃、このことを一般的な場合に証明した (Comptes Rendus note, April 1940) が、代数幾何学を建設するために多くの時間を注ぎ込んだ。このことから、彼はヴェイユ予想へ至り、グロタンディエク(Grothendieck)はこの予想の解決のため、スキーム論を開発し、最終的に予想は後に、ドリーニュ(Deligne)により証明されることとなった。一般論の基本公式については、エタールコホモロジーを参照。

ゼータ関数の一般的公式

Z ( X , t ) = i = 0 2 dim X det ( 1 t Frob q | H c i ( X ¯ , Q ) ) ( 1 ) i + 1 . {\displaystyle Z(X,t)=\prod _{i=0}^{2\dim X}\det {\big (}1-t{\mbox{Frob}}_{q}|H_{c}^{i}({\overline {X}},{\mathbb {Q}}_{\ell }){\big )}^{(-1)^{i+1}}.}

この式は、フロベニウス写像に対するレフシェッツ不動点定理の結果である。

ここに X {\displaystyle X} は、q 個の元を持つ有限体 F 上の有限タイプの分離的スキームであり、Frobq X ¯ {\displaystyle {\overline {X}}} のコンパクトな台を持つ幾何学的フロベニウス作用である。 X ¯ {\displaystyle {\overline {X}}} F の代数的閉体への X {\displaystyle X} のリフトである。このことは、ゼータ関数が t の有理関数であることを示している。

Z(X, t) の無限積公式は、

Z ( X , t ) =   ( 1 t deg ( x ) ) 1 {\displaystyle Z(X,t)=\prod \ (1-t^{\deg(x)})^{-1}}

である。ここに、積は X の閉点 x 全てを渡り、deg(x)x の次数である。局所ゼータ関数 Z(X, t)q-s の変数変換を通して、複素数変数 s の関数と見ることができる。

上で議論した X が多様体 V の場合は、閉点は V ¯ {\displaystyle {\overline {V}}} 上の点 P の同値類 x = [P] のこととなり、2つの点の同値とは F 上で共役なこととなる。x の次数は P の座標により生成される F の拡大次数である。無限積 Z(X, t) の対数微分は、容易に、上で議論した生成母関数と見なすことができる。すなわち、

N 1 + N 2 t 1 + N 3 t 2 + {\displaystyle N_{1}+N_{2}t^{1}+N_{3}t^{2}+\cdots }

である。

関連項目

脚注

  1. ^ Daniel Bump, Algebraic Geometry (1998), p. 195.
  2. ^ Barry Mazur, Eigenvalues of Frobenius acting on algebraic varieties over finite fields, p. 244 in Algebraic Geometry, Arcata 1974: Proceedings American Mathematical Society (1974).
  3. ^ Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, p. 449 Springer 1977 APPENDIX C "The Weil Conjectures"

参考文献

  • 日本数学会 編『岩波数学辞典』(第 3 版)岩波書店、1985年。ISBN 4000800167。 
  • 上野, 健爾『代数幾何入門』岩波書店、1995年。ISBN 4000056417。